• リーダーインタビュー

「話そう」と構えなくても、打ち解けられる。全人類にアイスブレイクを!——be♭:伊藤詩奈

今のは嫌味だった? それとも、ただの冗談?
──仲良くなりたいのに、相手の言葉の裏を考え、つい気を遣ってしまう。

そんな人間関係のちょっとした難しさを自然に生まれる「楽しさ」でほどこうとしているのが、アイスブレイク研究所「be♭(ビーフラット)」のリーダー・伊藤詩奈です。現在、開発・販売しているのは、持ち歩けるバッグチャーム型のアイスブレイクゲーム「MelTOY(メルトイ)」。気まずい瞬間や盛り上がりたい瞬間が訪れたら、その場で取り出して会話のきっかけにできるプロダクトです。
かわいらしいキャラクター、ポップなデザインが印象的なMelTOYですが、その背景には中学生の頃から対話について考え続け、それを「どう伝えるか」に悩んできた時間と、メンバー同士で夜を徹してまで語り合うほどのアイスブレイクへの熱があります。be♭はなぜ、そこまでアイスブレイクに夢中になるのか。MelTOYの開発やナナナナ祭2026での経験を通じて見えてきたこと、そして伊藤が思い描く未来について聞きました。

悪口でつながった関係は、どこか寂しい

──be♭は現在「アイスブレイク研究所」として活動していますが、ここでいう「アイスブレイク」について聞きたいです。例えば仕事の会議で場をほぐすようなものよりも、もう少し広く捉えているイメージでしょうか?

伊藤:はい、「ビジネスでのアイスブレイクですか?」とよく聞かれるのですが、私たちが考えているアイスブレイクは、もっと人間関係全般に関わるもの──「全人類に関わるもの」なんです。

ビジネスの場では、本音と建前がある中で「私は敵じゃないですよ」と示すためにアイスブレイクが必要とされてきたと思います。でも今って、普通の友だち同士や家族の間でも、そういうものが必要になってきている気がしていて。最近は「マウント」や「冷笑界隈」「フレネミー*」といった言葉があったり、MBTI診断のように人をカテゴライズするものが流行したりしていて、人と関わるときに色々と考えすぎてしまう。私自身、悪口がアイスブレイクになって、それに同調することで仲良くなれたように感じることもありました。でも後から考えると、そういうつながりって寂しいなと思って。

*フレネミー・・・フレンド(友達)とエネミー(敵)を組み合わせた造語。JC・JK流行語大賞2026のコトバ部門では2位にランクイン。「表面上は仲が良いが、裏では嫉妬や足の引っ張り合いをしている」意味として若者を中心にキーワードとなっている。

100%本音を話せることが必ずしもいいとは思っていませんが、もっと自然に内面が出てきたり、その人の人柄を知れたりするきっかけがあったらいいなと思います。be♭で「人類すっぱだか計画を実現しよう!」と言っているのも、物理的に裸になるという意味ではなくて(笑)、肩書きや立場だけではわからない人間性を見せ合えるようなコミュニケーションをつくりたい、という意味なんです。

──伊藤さんがそこまで「対話」や「コミュニケーション」について考えるようになったのは、いつ頃からなのでしょうか。

伊藤:中学生の頃からだと思います。チアダンス部に所属していたのですが、先輩に対して決められた高い声で話さないといけないとか、「英検で休みます」ではなく「英語検定で休みます」と正式名称で言わないと注意されるとか、すごく厳しい伝統があって(笑)。先輩や後輩と仲良くなりたいのに近づけない感覚がありました。自分たちが上の代になったときに、「この雰囲気、変えたいよね」と同期で話して、先輩・後輩の呼び方を変えたり、毎週みんなでゲームや話し合いをする時間をつくったりしたんです。そうしたら、それまで知らなかった後輩のことも知れるようになって。その経験から、「コミュニケーションによって人が変わるのって、どういうときなんだろう?」と興味を持つようになりました。高校でも対話について探究するようになって、それが今までずっと続いています。

──その高校生のときの対話の探究でも、100BANCHに入居していたそうですね。ただ、今のbe♭の活動とはアプローチが少し違いそうです。

伊藤:はい、全然違います。以前「creaB」というプロジェクトをやっていた頃は、「対話が大事です」「対話をしましょう」と言って、対話する場をつくることを目指していました。……今思うと、すごく直球ですよね(笑)「相手の話を絶対に否定しない」といったルールを共有して、ちゃんと対話をする。でも、その場では話せても、終わった後に関係性が深まることがあまりなかったんです。

当初は「自分が何を話したいのかわかっていないから、内省が必要なんじゃないか?」とか、たくさん悩んで考えました。でも、だんだん「そもそも場が堅苦しいからなんじゃないか?」と思うようになって。「話そう」と思って頑張って話すんじゃなくて、楽しんでいるうちに、話そうと思っていなかったことまで気づいたら話しちゃっていた。そういう状況をつくった方が、自分がやりたかった「対話」に近づけるんじゃないかと気づきました。

 

「楽しい」を持ち歩けたら。MelTOYができるまで

──そして、対話の「楽しい」を表現するプロダクトをつくるために、100BANCHに再び入居したのですね。

伊藤:be♭として100BANCHに入ってから、本当に色々つくりました。没になったものが家にいっぱいあって部屋が狭いです(笑)。

ボードゲームをつくったり、「相槌が楽しくなるネイル」をつくったり、「会話の最初の抵抗感をどうやったら減らして、楽しく仲良くなれるか」を考えるようになりました。色々模索して行き着いたのは、「アイスブレイクが必要になる瞬間って突然やってくるよね」ということでした。初対面でなく知っている友だち同士でも、ちょっと気まずいとか、もう少し話せたらいいのに、という瞬間がある。だったら、わざわざ準備して使うものではなくて、いつでも持ち歩けるものがいいんじゃないかと思って、バッグチャームという形に辿り着きました。

be♭の発明品「MelTOY(メルトイ)」。ゲームが入ったバッグチャームで、持ち運んでどこでも遊ぶことができるシリーズ。

──ゲームをつくるうえでも、かなり議論しているそうですね。

伊藤:めちゃくちゃしています。それこそ最初は、スマホでできるゲームにするのはどうなんだろう?と、かなり話しました。例えば友だちと行ったカラオケで、人が歌っているときにずっとスマホを見ていることってあるじゃないですか。せっかく人といるのにスマホばかり見る状態をつくってしまったら、私たちがやりたいことと逆なんじゃないかと思って。だから最初はカードゲームにこだわっていたんです。でも実際にスマホを使ったゲームを試してみると、スマホを見るために使うんじゃなくて、スマホが会話のファシリテーターになることで、逆にスマホから意識が離れるという不思議な現象が起きました。それで、「スマホだからダメ」と決める必要はないのかもしれない、と最近は考え方が変わってきました。

スマホをかざすとゲームがはじまる、NFC搭載型バッグチャーム。

──開発中のゲームも、遊びながら改良しているんですよね。

伊藤:例えば今準備しているゲームは、元々「寿司」という人狼のようなゲームでした。嘘をついている人を当てるゲームだったんですけど、やってみたら、嘘をついている人だけがめちゃくちゃ楽しそうだったんです(笑)。そうすると、もう誰が嘘をついているのかバレバレで、周りも気を遣ってしまう。それじゃ面白くないよね、となって。そこで「じゃあ、全員が嘘をついていたら、みんな楽しめるんじゃない?」と、今の形になりました。

ゲームの内容を考えるときも、「その人の内面が自然に出るか」ということはすごく大事にしています。例えば「パレットピック」は、その時々で自分のスマホに入っている写真を使うので、時間が経てば出す写真も変わる。いつ遊んでも、その人の今の話が出てくるんです。……といっても、実際はサイゼリヤでミラノ風ドリアを食べながら、「ああでもない、こうでもない」と数時間、笑いながらひたすら話して考えているんですけど(笑)。

 

「楽しい」の先へ。「アイスブレイクオタク」をもう隠さない!

──ナナナナ祭2026ではMelTOYを展示しましたよね。アーケードゲームの体験も多くの来場者が楽しんでいました。実際に色々な人に体験してもらって、何か変わったことはありましたか?

伊藤:めちゃくちゃありました。まず驚いたのが、本当に色々な世代の人に楽しんでもらえたことです。最初は子どもにはあまりウケないと想定していましたが、子どもたちにもボタンを押す仕掛けやゲーム自体を楽しんでもらえたし、私たちよりずっと上の世代の方からも「おばあちゃんになっても仲良くできる人間関係って大事だからね」と言ってもらえて。

ナナナナ祭2026にて子どもから大人までアーケードゲーム体験を楽しんだブースの様子。

メンバーの一柳と会場を盛り上げる様子。

伊藤:実は……私たちは、それまでちょっとだけコンプレックスがあったんです。100BANCHには社会課題に向き合っているプロジェクトがたくさんある中で、自分たちの活動は「楽しい」が先行しすぎていて「社会的な課題」がないんじゃないかって。でもナナナナ祭で、人間関係について悩んでいる人や、私たちが考えていることに共感してくれる人がこんなにいるんだと知れたことはすごく大きかったです。

──「楽しさ」の出し方について、思うところがあったのですね。

伊藤:まさに今、揺れています。creaBの頃に、真面目に対話を伝えようとしてすごく堅くなってしまった経験があったので、be♭では逆に「楽しそうに見せなきゃ」と思いすぎていたところもあったのかもしれません。本当はアイスブレイクについて色々考えている熱い側面──ちょっといきすぎたオタク的な側面もたくさんあるのに、楽しそうな言葉でしか伝えようとしてこなかったよね、という反省が最近あって。

Instagramでも、「しげお」というキャラクターを知ってもらった方がキャッチーに伝わるんじゃないかと思って、徹夜してアニメをつくっていました。それをきっかけにフォロワーも増えて、それはもちろん嬉しいんですけど、「私たちが本当に伝えたいのって、キャラクターのかわいさだっけ……?」という感覚も出てきて。

be♭が制作したアニメーションの一場面。「しげお」をはじめ、かわいらしいキャラクターが登場。

伊藤:ナナナナ祭で、お客さんに「悪口でつながってしまう関係」や「マウントを取り合うようなコミュニケーション」についてポロッと話したことがあったんです。ちょっと引かれるかなと思っていたんですけど、逆に「私も、同調圧力で悪口を言わなきゃいけないような環境が嫌なんです」と、すごく共感してくださって。そこで、「しげお」というキャラクターだけじゃなくて、「アイスブレイク研究所」という部分に共感してもらえていたんじゃないか、と気づきました。だったら、もっとちゃんとアイスブレイクについて研究して、私たちが考えていること自体を発信してもいいんじゃないか、と。これは本当に、ここ最近出てきた話なんです。

──メンバー間で普段からかなりアイスブレイクについて話しているんですよね。

伊藤:もう、ずーーっと話しています!(笑)

「これはアイスブレイクに分類されるのか?」とか、「こういうアイスブレイクって意味あるのかな?」とか。昨日も作業をするために100BANCHに集まったのに、ずっとアイスブレイクについて議論していて、気づいたら終電でした。

伊藤:メンバー同士でも意見が違うので、めちゃくちゃ喧嘩もします。駅で話していて結論が割れて、「もういい!このプロジェクト、解散だ!」と言い合いになることもありますし、ナナナナ祭の前にも「もう出展、やめよう!明日事務局にやめますって謝りに行こう!」みたいなところまでいきました(笑)。

でもナナナナ祭を経て、以前より「やめよう」となることは減ったように思います。ブースを訪れてくださった方の中には「こういうことって大事だと思っていました」とか、「応援したいのでInstagramをフォローします」と、自分たちから言わなくても応援してくれる方もいて。それを経て、「もう私たちメンバーだけのプロジェクトじゃないよね」と思うようになりました。be♭をやめたとしても、私自身が感じている人間関係へのモヤモヤはなくならないし、そこに共感してくれた人たちの思いもなくならない。いい意味で、自分たちだけの都合で「やめる」と言いにくくなりましたね。

──「楽しい」を入口にすること自体が間違っていたわけではなく、その先まで見せられるようになってきたということなのかもしれませんね。

伊藤:私たち自身、「楽しそうにしている人には誰も勝てないよね」という感覚をずっと大事にしています。堅い内容を堅い顔で伝えていても人は寄ってきてくれません。でも、楽しそうなものには自然と人が集まってくる。だから「楽しい」はこれからも大事にしたいです。ただ、その入口の先に、私たちが人間関係やアイスブレイクについてずっと真剣に考えていることも、ちゃんと伝えていきたいです。

 

幼稚園では紙靴屋さん。形を変えても、気持ちは変わらない

──伊藤さんは高校時代から、形を変えながらずっと対話について考え続けています。こうして長く活動を続けるイメージは元々ありましたか?

伊藤:高校生のときに出たビジネスコンテストで審査員の方から、「10年続ける覚悟はありますか?」と聞かれたことがあります。そのコンテストの優勝賞金が300万円だったので、正直なところ「300万円は逃せない!」という気持ちもあって「やります」と答えたんですけど(笑)。でも、無意識で本心を答えていたなとも思っていて。気づいたらあれから7年が過ぎていました。

プロジェクトの名前も変わったし、やっていることも絵本のワークショップからゲーム、MelTOYへと変わってきています。でも、対話やコミュニケーションについて考えていること自体は、ずっと変わっていないです。人の価値観を変えるには長い時間がかかるので、これからも形にこだわらず、自分たちができることを続けていきたいです。

最近は「冷笑」や「フレネミー」といった言葉が広まっていますが、人の目を気にしたり、相手の言葉の裏を考えたりして生きづらさを感じることもある時代だからこそ、MelTOYで遊んでいたら自然と打ち解けていた、というような関係がもっと増えてほしいんです。誰かと仲良くなるために、必ずしも頑張って対話する必要はない。楽しい会話から自然に人との関係が生まれることもあるんだ、という考え方を広めていきたいです。

──そのためにこれからbe♭でやってみたいことはありますか?

伊藤:たくさんありますが、物理的な「場」をつくってみたいです。メンバーみんな展示会が好きなのでそういう出展は増やしたいですし、他には「自然と仲良くなれる居酒屋をつくりたいよね」という話もしています。我が家は外食で串カツ田中に行くことが多かったのですが、自分で焼くたこ焼きがあったり、チンチロがあったりするじゃないですか。ああいう仕掛けって、めちゃくちゃアイスブレイクだよねってよく話していて。そういう、自分たちが楽しいと思うものを多くの人に楽しんでもらえるようなことをやり続けたいです。個人的には、ずっとディズニーが好きなんです。人を楽しませる空間をつくれる人ってすごいなと思っていて、私もいつか、そういう場所をつくれる人になりたいです。

私は小さい頃から、人を楽しませるものをつくることがずっと好きでした。幼稚園の頃も、みんながおままごとをしている横で、紙で靴をつくって靴屋さんをはじめて(笑)。それが友だちにウケて、紙靴ブームが生まれたことがあって、すごく楽しかったんです。楽しみながら何かをつくっている人って、周りの人のことも楽しませると思うんです。今やっていることも、自分たち自身が楽しみながらやっています。その「楽しい」という気持ちは、きっと相手にも伝わっていくと信じています。

 

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