英語でひとりごとを言ってみない??

Echoは「ひとりごと」を活用した新しい言語学習法を提案するプロジェクトです。多くの人が一度は感じたことのある「知っているのに使えない」を、ひとりで気軽に声に出しながら「使える英語」へ変えていく発話練習アプリを開発しています。
ナナナナ祭2026では、「英語でひとりごとを言ってみない??」と題したブースでアプリを体験してもらうとともに、来場者の言語学習の動機や課題を共有し合いました。多くの方との対話を、Echoの川上知宏が振り返ります。

「英語をたくさん勉強してきたのに、実際の会話ではまったく言葉が出てこない」
これは、私自身が長く感じてきた課題です。大学受験や資格試験のために英語を勉強し、ある程度の知識は身につけてきました。しかし、実際に学会や仕事の場で英語を話そうとすると、自分の考えをすぐに言葉にすることができませんでした。振り返ってみると、英語を「知識として学ぶ」時間に比べて、自分が伝えたいことを考え、実際に口に出す時間が圧倒的に不足していたことに気がつきました。
そこで現在は、ひとりごとを発話練習に変える言語学習プロダクト「Echo」を開発しています。今回のナナナナ祭では、Echoを展示するだけではなく、来場者との対話を通して、言語学習者が抱えているリアルな課題や動機を知ることに挑戦しました。
ブースでの体験は、次の 4 つの内容で構成しました。
プロダクトの機能を一方的に説明するのではなく、私自身が開発を始めた動機から、参加者自身の学習動機へと話題をつなげることで、Echo が向き合っている課題を参加者自身の経験と重ねながら考えてもらいたいと考えていました。


今回は、私にとって初めての本格的な展示でした。そのため、展示物をどのように配置するかだけではなく、ブースを訪れた人にどのような順番で情報を伝え、どのような体験を持ち帰ってもらうかというところから設計する必要がありました。
当初は、Echo を開発した背景や学習方法を詳しく説明し、アンケートへの回答まで完結できる Web アプリも制作していました。Web アプリを使えば、一定の体験を多くの人に提供し、回答を効率的に集めることができます。一方で、今回最も知りたかったのは、アンケートフォームだけでは捉えにくい、学習者一人ひとりのリアルな状況でした。
こうした一次情報を得るためには、Web アプリに任せるよりも、私自身が参加者と直接やり取りするほうがよいと判断しました。その結果、最終的にはブースを体験したすべての参加者と、私自身が会話する形式を取ることにし、三日間で 150 名もの参加者と対話することができました。効率的な展示ではなかったかもしれません。しかし、参加者の言葉だけでなく、質問に対する迷い方や反応、説明のどこで興味を持つのかまで知ることができた点は、大きな収穫になりました。

ブースでは、さまざまな反応をいただきました。すでに英語を身につけた経験がある人からは、「自分も似た方法で取り組んでいた」「ひとりごとを使う方法はよさそう」といった声がありました。実際にアプリをインストールしてくれた人や、「これから使ってみる」と話してくれた人もいました。一方で、プロダクトとして乗り越えるべき課題も見えてきました。
こうした質問に加えて、特に印象に残ったのは、学習の継続に関する反応です。
言語学習では、学習方法に納得できることと、実際に継続できることは別の問題です。Echo のコンセプトや、ひとりごとを使った学習方法そのものには一定の共感を得られた一方で、それを日常の習慣にするための仕組みは、まだ十分ではないと感じました。
今回最も検証したかったことは、来場者が言語学習に対して、どのような動機を持っているのかを知ることでした。その結果、想像していた以上に、多くの人の学習動機は曖昧であることが分かりました。
そうした思いはあるものの、具体的に誰と話したいのか、どのような場面で使いたいのかまでは決まっていない人が多くいました。
今回、私は150人の方と直接お話ししました。その中で、実際にその言語を使う場面を想定しながら、現在も学習に取り組んでいることを対話の中で確認できた人は、体感で 5 人程度でした。それでも、「英語を学びたい」と考えている人の多さに比べて、具体的な利用場面を想定しながら学習している人は非常に少ないことを実感しました。一方、すでに英語を話せるようになっている人は、明確な必要性を経験していました。
実際に英語を使う状況があるからこそ、自ら話す機会をつくり、能動的に学習していました。「英語を話せるようになりたい」という気持ちだけではなく、「この場面で、この人に、自分の考えを伝えたい」という具体的な必要性が、学習行動を生み出しているように感じました。

もう一つ、私の想像と異なっていたのは、すでにある程度英語を話せる人も、依然として学習上の課題を抱えていたことです。例えば、海外に1年ほど滞在した経験があり、日常会話には困らない人からも、「もっと自然に話せるようになりたい」という声がありました。また、海外生活を終えて日本に帰国したあと、身につけた英語力を維持したいという人もいました。一口に「英語を話せるようになりたい」といっても、抱えている課題は同じではありません。
それぞれ、必要としている学習体験は異なります。今回の対話を通じて、言語能力の高さだけではなく、利用目的や置かれている環境によっても、学習者の課題を分けて考える必要があると気づきました。

ナナナナ祭での対話を通して、ひとりごとを利用した学習方法や、Echo のコンセプトそのものには、一定の共感を得られたと感じています。一方で、コンセプトに共感してもらうことと、プロダクトによって実際に学習効果を生み出すことは別の問題です。また、学習者が抱える課題は、英語力や利用目的によって大きく異なります。あらゆる言語学習者に同時に応えようとするのではなく、まずは誰の、どの課題を解決するのかを明確にする必要があります。
Echo が最初に向き合いたいのは、「英語は勉強してきた。基礎的な知識もある。しかし、実際には話せない」という人です。知識として持っている英語を、実際の発話につなげる。その最初の一言を口に出すハードルを下げることに、まずは焦点を当てていきます。今後は、対象とする学習者の優先順位をさらに明確にするとともに、Echo を使うことで発話量や発話のスピードがどのように変化するのか、プロダクト自体の効果検証も進めていきます。また、「結局続けられない」という声にも向き合い、学習を習慣化する仕組みや、成長を実感できるフィードバックのあり方を検討していきます。

私が最終的につくりたいのは、その言語が話されている地域に長期間滞在しなくても、実際のコミュニケーションに使える言葉を身につけられる学び方です。例えば日本では、小学校から高校まで長い時間をかけて英語を学びます。それでも、実際に自分の考えを英語で伝えることに難しさを感じる人は少なくありません。
日本国内で学ぶことを前提にしながらも、知識を身につけるだけで終わらず、その言語を使って誰かとコミュニケーションを取れるようになる。そのためには、学習者自身の目的に結びついた言葉を選び、実際に口に出す機会を日常の中につくる必要があると考えています。
ナナナナ祭で 150 人の参加者と向き合ったことで、私自身の経験から始まった Echo を、他の学習者の現実に近づけるための多くの材料を得ることができました。今回集まった声をもとに、誰の、どの課題を解決するプロダクトなのかをさらに明確にし、「勉強してきたのに話せない」という状態から、最初の一言を踏み出せる学習体験をつくっていきます。