torisetsu factory - あなたの取扱説明書つくりませんか?

「Formeet」は「言えない」をAIで解消し、障害のない職場をつくるプロジェクトです。発達障害や精神障害のある人が職場で抱えるコミュニケーションの難しさに着目し、150人以上へのインタビューを重ねてきました。その中で見えてきたのは、障害は個人の側だけにあるのではなく、伝えたいことをうまく言葉にできなかったり、伝え方によって意図が届かなかったりする、職場や社会の側にも「見えない障害」があるということ。
そこでナナナナ祭2026では、来場者がAIと10分話すだけで自分のコミュニケーションの特性やストレスサイン、その対処法、才能タグなどがまとまった、自分の「トリセツ」(取扱説明書)を受け取れる体験ブースを企画しました。多様なトリセツが次々に会場で生まれた3日間の模様を、Formeetの中田歩希がレポートします。
2026年7月10日から12日までの3日間、ナナナナ祭2026にformeetは自己理解サービス「ジブトリ」を出展しました。ジブトリは、自分の取扱説明書(トリセツ)をAIとつくるサービスです。いくつかの問いに答えていくだけで、自分がどんなときに力を出せるのか、どう頼まれると動きやすいのかが、そのまま人に見せられる文章になって手元に残ります。

ブースでは、設問とAIとの対話に答えていくと、あなたの取扱説明書がその場で生成されます。いくつかの設問から自分のコミュニケーションタイプを割り出し、それを象ったパズルピース型のキーホルダーをその場でお渡ししました。かざすと、自分の取説が開きます。このピースには、ひとつだけ譲れない考えを込めました。ピースの「凹み」を、直すべき欠点ではなく、他の人の突起と噛み合うための接点として設計したことです。特性は直す対象ではなく、噛み合う場所である。その思想を、手に取れる形にしたかったのです。3日間で389人もの方に体験をしていただき、その96%が最後まで完了しました。途中で離脱する方は、ほとんどいませんでした。

なぜこれをつくっているのか。きっかけは、中学時代に明るかった友人との再会でした。職場の悩みを誰にも相談できず、すっかり元気をなくしていたのです。当事者・企業・福祉施設を含めて170人以上に話を聞くうち、これは個人ではなく、相談が生まれない社会の構造の問題ではないかと考えるようになりました。相談を阻むのは、相談しても無駄だという無力感、自分の感覚を言葉にする難しさ、自分がダメなだけだと抱え込む自責、この3つの壁です。もうひとつ、気になっていたことがあります。発達障害という言葉が広まる一方で、そのラベルが付いた人をみんな同じとみなす、歪んだ見方も一緒に広がっていることです。特性は、直すべき欠点ではなく、噛み合う接点として捉え直したい。米国の職場配慮に関する調査(Job Accommodation Network、回答5,406社。https://askjan.org/topics/costs.cfm)では、職場での配慮の61%はコスト0円ででき、配慮した事業者の85%が人材の定着につながったと答えています。解決策は安く、近くにある。それでも届いていない。足りないのは配慮の中身ではなく、その手前の「言い出せる状態」なのだと思います。だからジブトリは、職場に向かいます。
初日86人、2日目137人、最終日166人。日を追うごとに、ブースの前の人が増えていきました。パズルピース型のキーホルダーは有料でお渡ししていたのですが、販売した2日間で56〜68個。体験した方のおよそ2割が、その場で自分のピースを買って持ち帰っていきました。「UI可愛くて、分かりやすくていいなと思いました!」「健康診断みたいに定期的にチェックするのも面白そう」。そんな声もいただきました。
ブースにはもうひとつ、「怒られた図鑑」という企画を置きました。過去に怒られたこと、モヤモヤした出来事と、そのときどう対処したかを、来場者の方々に持ち寄ってもらう参加型の企画です。取説が「自分を知る」ための道具だとすれば、こちらは「自分だけじゃない」と知るための場所です。この2つを並べたのは、自己理解は一人では完結しないと考えているからです。

私たちがこの体験を通じて一番知りたかったのは、体験した本人が自己理解が深まったと感じるか、そして、気づいていなかった自分に気づけるか、でした。どんな聞き方が一番効くのかは、世界の研究でもまだわかっていません。だから、自分たちで測ることにしました。
結果は71%。総合満足度は5段階で4以上が90%、生成された取説について、これは自分だと感じた人が87%でした。「対立が嫌いだったり、ストレスに感じるのが、最近心当たりがありすぎて、とても当たってます」「落ち着くために意識的に取ってきた行動が今回提案されていて、今までやってきたことがあっていたのだなと安心しました」。そんな声をたくさんいただきました。指摘が的確すぎてドキッとした、という反応もありました。そして、いちばん驚いたのは数字ではありません。自由記述32件のうち5件が、こちらから一言も聞いていないのに、職場での利用に触れていたのです。「会社で相互理解に使いたい」「各々の特性を先に把握することで、コミュニケーションのトラブルや人間関係の悪化を防げる」「受け取った側への接し方のアドバイスが欲しい」。個人向けにつくったつもりの体験が、その場で職場の道具として読み替えられていく。3日間で最も強い手応えは、そこにありました。

その中でも、手応えを感じた発見がありました。取説が自分だと感じた人ほど、レッテルを貼られたとは感じにくい、という弱いつながりが見えたのです。的確に言い当てることは、必ずしも決めつけにはならない。むしろ丁寧に翻訳するほど、レッテルから遠ざかるのかもしれない。取説が本当に人ごとに違うのかも、すでに手元のデータで確かめています。総当たりで比べたところ、ほぼ同じ文章といえる組み合わせはひとつもなく、同じタイプの人どうしでも書き分けられていました。型どおりの定型文を配っているわけではない、ということです。
準備はこんな感じでした。キーホルダーは3Dプリンタで事前に量産し、当日は会計・接客・記録を少人数で回せるようにしました。AIとの対話にかかった費用は、体験1人あたりおよそ10円。人数が増えても費用が跳ね上がらない設計です。うまくいかなかったこともあります。体験後のアンケートの回収率が、初日51%から最終日26%まで下がりました。最終日の朝に画面へ誘導ボタンを足して当日デプロイしましたが、それでは動線そのものを変えることはできませんでした。こうした反省は、そのまま研修の設計に効きます。人数と時間が決まっている場で、どこが詰まるのかを先に知っているということですから。

研修に落とすなら、こういう形を考えています。まず、参加者一人ひとりがその場で自分の取説をつくります。事前課題も準備もいりません。次に、できあがった取説をチームで見せ合い、「自分はこう頼まれると動きやすい」を交換します。最後に、過去に怒られた出来事と、そのときの対策を持ち寄る。個人の反省会ではなく、チームの対策集をつくる時間です。狙いは、評価でも診断でもありません。この人にはこう頼むと力が出る、を上司と本人が同じ言葉で持てるようにすること。特性のデータを評価に一切使わないことは、設計の前提として決めています。3日間で389人を回した体験ですから、研修の人数と時間感覚でも無理なく回せます。
そこで、一緒に試してくださる会社を探しています。新人研修や1on1研修で、相互理解のパートに悩んでいる。心理的安全性を、言葉だけで終わらせたくない。面白そうだから、まず自分たちで試してみたい。どれかひとつでも当てはまる方がいらしたら、まずは1チーム分から、一緒にやらせてください。率直な違和感こそ、いただきたいと思っています。あわせて、外部の信頼を借りてより確かな設計にするための心理や精神医療の専門家の方、体験して率直な違和感を教えてくれる特性とともに働く当事者やご家族・支援者の方、検証の設計を一緒に鍛えてくれる研究者の方とも、つながっていきたいです。診断が必要になる前の職場で、言えないをAIが肩代わりし、相談が自然に生まれる状態をつくる。そのために、力を貸していただける方は、ぜひ声をかけてください。
最後になりますが、3日間ブースに立ち寄ってくださった皆さん、取説を最後まで書いてくださった389人の方、アンケートに答えてくださった129人の方、本当にありがとうございました。この場を用意してくださった100BANCHの皆さん、準備と当日を支えてくれた仲間にも、あらためてお礼を申し上げます。ジブトリは、ここからが本番です。

(ジブトリは現在、開発・検証段階の体験版です。サービス名や仕様は今後変わる可能性があります。お問い合わせは info@formeet.jp まで。)