• イベントレポート

自炊を使命に変える展示。ジスイ展「 思い出の たべのこし すくいませんか?」──ナナナナ祭2026を終えて

「Jisui」プロジェクトは、手料理にまつわる誰かの「未練の思い出」や「果たせなかった運命」「世界線」を追体験し、運命をすくうことで、プレイヤーが抱える自炊阻害要因の「知識が足りない」「使命感が足りない」も同時に解決する、一石二鳥のノベルゲームを制作しています。
今回ナナナナ祭2026では、ノベルゲーム試遊のほか、ゲームとしては載せきれなかった全国の自炊の思い出集を展示。時空を超えた自炊の世界を、子どもから大人まで多くの方に体験してもらった様子をJisuiの前田洋佑がレポートします。

「思い出の たべのこし すくいませんか?」とは

企画概要

「思い出の たべのこし すくいませんか?」

出展させて頂いた企画の題名には、二重の意味・想いを込めています。私が展示したのは「時空を超えた、名もなき”ジスイ(自炊)”の旅」。全国から都道府県・年代問わず、集めた手料理にまつわる実話を展示しました。手料理だったからこそ生まれた、家庭のドラマや心の叫び、感動したことや切なかった出来事が、あなたの目の前に、漂います。

 つまり、ここにある「出来事=運命の結末」は、自炊がなければ生まれなかったものです。「食べのこし」はご飯の意味と、誰かに知ってほしかったこと・未練でやり残したことの意味を重ねています。「すくう」ことは、匙(さじ)で「掬う」ことと、救済の「救う」の意味を重ねています。 一部エピソードはノベルゲーム「ジスイ」として、あなたがその人に乗り移る形でプレイできる試遊も提供しました。 200人近い方々にご来訪頂いた様子を、前田がレポートします。

 

プロジェクトとしての「ジスイ」

ブースの説明の前に、前提の概要を説明します。 Jisuiプロジェクトは、自炊に対して腰が上がらない人に対し、自炊の阻害要因「知識」「使命」の不足をはね返し、「誓いの約束」をあらゆる手段を以てさせる事で自炊に導く体験設計や動機の再開発を実施しているプロジェクトです。リアル出展とデジタルノベルゲームの両軸で展開しています。

 

ナナナナ祭ブースでの「ジスイ展」

そしてブースでは、自炊の腰を上げるトリガーとなりうる「時空を跨いだ自炊の実話」を掲示しています。1976年から2026年までの50年の幅で掲示しました。

ブースの中ではタブレットでゲーム試遊もでき、そして最後にはアイテム「希望の匙(さじ)」を私と握り合い、自炊の約束を交わす体験を実施しました。

タブレットの前には、ゲーム上のナビゲーターキャラクターの少女の肖像画があり、以後も試遊したことを思い出せるように、お持ち帰り頂いたキャプションカードにも肖像画が印刷されています。

そして真ん中には、その天界の少女の母親が変わり果てた姿「神器ホゾンキ」のオブジェが佇みます。

ゲーム上では、時空を跨いだ自炊の実話たちは、神器ホゾンキの中に貯められている設定で、そこから実話を選んでゲームプレイします。

希望の匙(さじ)を握り合い誓いの約束を交わしたあなたは、最後に白い紙を渡されます。その中には「神器ホゾンキ」にまつわる、悲しくも美しい「使命」の背景が眠っているのです。

 

そもそもなぜ自炊なのか

きっかけの課題「自炊」

ナナナナ祭でもご来場者に何度も「きっかけ」を聞かれましたので、記載します。きっかけは周囲で自炊がどうも続かない、という声を同時期に複数伺ったことでした。私も昔は頻度高くできていたのですが、社会人になりだいぶん減ったと当時思っていました。出来る時と、出来ない時で、どのような差分があるのか?の疑問がきっかけとなりました。

 当初想定した、自炊ができないことで生じる影響課題として、

 ・個々人の目線では:自活能力がないことによる自信喪失や他者との関係性に不利を被る場合があります。(リテラシー差により懇親や交際の能力格差)

 ・社会的な目線では:一定の人口を占める年収が300-400万円層は、外食や買い弁による食費が家計を圧迫しやすいことに加え、長時間労働などによって自炊に時間を割くことも難しい場合があります。

その結果、強い動機がない限り自炊のリテラシーを身につける機会が限られてしまうことも挙げられます。

 

「 知識」かつ「使命」が必要条件の「自炊」

また、自炊を妨げる原因課題として

・「知識」がないこと(料理名、食材、調理プロセス)

・「使命」がないこと(義務感を与える他者が少ない)

 をヒアリングから事前分析しました。

また、自炊において難しいのは、「知識」と「使命」を同時に満たす必要があることです。小さな子供がいるので作る使命(義務)はあるが、作りたいものの知識がないと実現できませんし、作る知識を備えても、作る使命や作る相手がいなければ、自分ごとの範疇では楽な買い弁に流れてしまいます。また、小さな子供は、お腹が減っても親の手を借りなければ生きていけません。「すくうべき他者」が身近にいることで、「使命は発揮」されます。

 

解決のヒント:すくうべき他者の「強い実話」の「自炊」

前述の課題から始めた当プロジェクトですが、自炊の実態の確認など、「実話募集」を通じて進めている中で、集まるエピソードが想像以上にヘビーであったり、強くココロに訴えかけるもの、切なかったり、感動したり、未練を残していたりするものが数多く寄せられました。 徐々に推進者の私自身も、これらの「すくわれたい」「強いココロ・実話の思い出」に背中を押されました。課題の「腰を上げさせること」へのアンサーとなりうる、強い原動力を感じたからです。そして方針を調整し、現在の形に至ります。

 

栄養摂取を超えた「人生の運命の分岐点」に成りかねない「自炊」

文明の進化と共に、生きるために食べることは、どんどん短縮されました。いまや完全栄養食の時代です。テイクアウトやデリバリーも豊富。自炊を「生きるための栄養摂取行為」に過ぎないと思い込んでいるから、利便性との比較から、食べるだけなら「買い弁でいいや」となってしまいます。

しかし例えば、全国から私の手元に集まった、下記の実話の例ではどうでしょうか。「反抗期で半年口をきいてくれない息子に、手作りのオムライス。ケチャップでメッセージ。それが息子に刺さり、半年ぶりに会話をした。今では仲良しに。」もしオムライスが手料理(自炊)ではなく、コンビニのオムライスを買い与えただけだったらどんな運命の世界線だったでしょうか。もしかすると、そのまま息子さんとは、一生疎遠だったかもしれません。

 つまり、自炊が担うパワーとして、栄養摂取行為のみでなく、他者連接をエンパワーする「運命を左右しうるコミュニケーション」としての力や位置付けを普段から自覚できれば、もう少し自炊に踏み切ろうと思えるのではないか。家庭のドラマを、人生をより良くする世界線を生み出す力が、自炊にあることがわかりました。それを、買い弁に流れがちな人たちは、自覚する(気づかせてもらう)機会が、少ないのでしょう。

 

ジスイという体験をどう設計したか

解決案:「使命」を帯びた「すくわれたい実話」の旅で「知識」を必ず通過する体験の「ジスイ」

【自炊の必要要件】=【使命】かつ【知識】であること

【使命】は 義務感を引き起こす他者 に強く左右されること

【義務感を引き起こす他者】には【すくわれたい】【強い実話】の持ち主が好ましいこと

ここまで得たヒントを組み合わせた体験提供を、ナナナナ祭の内容に組み込みました。あなたはすくわれたい実話を選択し、当事者の運命を超えてゆく使命を携え、否応なく知識を通過します。そしてその先には必ず「約束」が待っています。

 

「自」と「炊」に捉われない“超時空の他者”との「ジスイ」

ナナナナ祭では、ここまで述べたような、推進者の私の心を突き動かした自炊の実態と実話が生むココロのエネルギーを伝える展示をちりばめて読めるようにしました。自炊を栄養摂取ではなく、運命を拓く、または逆に、サボれば運命を閉ざしてしまう、本来であれば人生に深い影響力を与えかねない暗黙のコミュニケーション行為として、自炊を「ジスイ」に再定義しました。ナナナナ祭でも強調して説明しています。しかしそれだけでは体験の設計に落とし込みきれていません。展示を見た瞬間の印象は与えられても、一過性です。使命を伴う没入感や継続性を足すには体験をシステム化する必要があると感じ、主体的に実話の運命に干渉できるノベルゲームを採用し、進化させています。

 ゲームの中には、ブースで並べられたものと同様に、時空を超えた=年代や都道府県を跨いだノンフィクションの自炊の実話を用意しています。

― 明日も ジスイを 約束してくれますか? ―

あなたはその人をすくう「使命」を携え「知識」を通過し、最後に「約束」をするのです。

 

自炊人口を選民しないための、他者半径拡大戦略の「ジスイ」

料理に関する取り組みとなると、自分好みのセルフレシピの追求や、料理のトレーニング、料理する行動自体のエンタメ化が語られやすいですが、ジスイにおいてはあえて取り扱わず、戦略的に避けています。また、レシピアプリは、すでにキッチンに立つ人のためのもの、すなわち腰がある程度上がっている人のためのものです。ジスイがスコープにするのは、ベッドからキッチンに向かえない人、ベッドから買い出しに向かえない人です。

また、もし、レシピアプリを開いて「ハーブ」が食材に含まれる際、どれだけのご家庭でハーブが常備されているでしょうか。せっかくキッチンに立ったのに、そこで離脱する人もいるでしょう。

つまり料理ができる人が料理アプリを見てそのテクニックを磨いたり深いエンタメを追求できる副作用として、マクロ目線では自炊人口(キッチンに立つ人)をふるいにかけて選民している可能性があるのです。よって、ジスイでは自炊人口を増やすべく、調理そのものは取り扱わず、前段の「使命の再設計」をノンフィクションの読み物として展開します。そして使命は、すくわれたい強い実話の他者の広がりに比例します。「使命と他者連接の半径の拡大」を取り扱う様、差別化しています。

 

世界観を支えるゲームデザイン

リアルアート展示としての「ジスイ展」

2026年1月、そして今回7月ナナナナ祭において、時空を跨いで網羅された自炊の強い実話をご見学頂いた上で、自炊に対する意識の変化や気づきがあったのか、ヒアリングも兼ねたアート展を実施しています。

 

実話集SFとしてのノベルゲーム「ジスイ」

前述の通り、あなたは “とある人智を超えた高次元の導き・因果・法則・エコシステム” に振り回され、時空を超えて他人の記憶に乗り移ることを続けます。超時空の記憶の旅の中で、「使命」「知識」そして「約束」をすることを、延々と繰り返し、あなたの中にジスイを焼き付けてゆきます。

 

創作神話としてのノベルゲーム「ジスイ」

しかし、全国の実話の別々の主人公にプレイヤーを乗り移らせることは、あくまで提供側の都合です。時空を超えることも、提供側の都合でとても唐突です。プレイヤーはそのような事情は関係ないため、「なぜ非連続な別人に毎回乗り移らなければならないのか」と思ってしまいます。そこで、オムニバスな別々の実話を束ねて、乗り移りを継続させる「理由の強化」がいると思い、ベースとなる神話のストーリーを設計しています。そこで登場するのが冒頭も記載のナビゲーターキャラクターの少女です。彼女の名前は「妖精スプーン」。

結論だけ言えば、「自炊しない人のせいで、天が重くなり、天が沈めば世界が破滅する。それを防ぐ。」ために、妖精スプーンに助けを請われた現代人のあなたは、妖精スプーンと神器ホゾンキの力で時空を跨いだ実話の旅をします。

なぜ、天が重たくなるのか?

なぜ、実話に必ず自炊料理が登場するのか?

など、多くを語られないまま巻き込まれるあなたは、徐々にその理由や真実に近づいてゆくのです。

 

動機の継続のトリガーを「カトラリー」に込めて

創作神話に登場するナビゲートキャラクターたちは、皆カトラリーから名前を取っています。「妖精スプーン」は名の通りスプーンですし、その母である神器ホゾンキの元の名は「天女サラ」すなわち皿から取っています。

例えばカトラリーのスプーンを現実で握るたびに、妖精スプーンとの時空旅を思い出して欲しい。皿の上に手料理を並べるとき、天女サラが体現した名もなき形なき愛も、一緒に並べて欲しい。あなたが誰かを想い自炊する時に、ターナーで運命ごとはね返して欲しい。展示やノベルゲームは、どうしても与える作用が一過性です。ですから、日々使う道具を味方につけて、ジスイで得た体験や感想を想起させ、使命のリデザインを行おうとしています。

 

ナナナナ祭で実装した体験

約束を握りあう誓いの儀式「希望の匙(さじ)」

まだ未完のノベルゲームですが、最後にもらえるアイテムはすでに決めてあります。それが「希望の匙(さじ)」。ゲーム的には希望の匙を得ることで、シナリオ全クリア後のフリープレイに移るのですが、今回はいち早くリアルで作ってしまいました。神秘的な箱に入り、虹色に光っています。

ナナナナ祭は子供向けにチューニングして出展しています。ノベルゲームの実話シナリオも、保育園から小学校の教室にかけての思い出にしています。仮に介護や仕事の自炊話をしても、子供には想像が難しいからです。私は、子供達に指切りの「約束」をして欲しいと思いました。今からでも、大きくなっても、自炊に関心を持って、他者想いになって、生命の塊の食材に感謝して、日々を積み重ねて欲しいと思います。直接指に触れるのは抵抗もありますので、虹色に輝く希望の匙の端っこを握り合い、約束します。

― 明日も ジスイを 約束してくれますか? ―

子供達には全ての意味がわからなくとも良いと思っています。

謎は、謎のままで良いのです。

これから給食でスプーンを握るたびに、「不思議な空間で、謎の男と、虹色のスプーンを握り、自炊の約束したこと」を、おとぎ話のように時々思い出して欲しい。そう願っています。

 

サブコンテンツ:あなたの思い出も小説に

前回のジスイ展でも設置した、「あなたの思い出を三択エンドの小説に生成してみよう」のコーナーを、今回もパワーアップして用意しました。

他人の実話を眺める前に、自身の実話を神器ホゾンキへ通行料として捧げることで、実話への参画と没入を高めるオプションコンテンツです。前回より生成のクオリティが上がったほか、音声認識に対応しました。

 

サブコンテンツ:イラスト展示

ゲーム用のイラストを随所に展示しています。

 

サブコンテンツ:食品サンプル

子供達にブースに来て欲しかったため、子供の興味を惹きそうな食品サンプルを用意しました。想像以上に効果があり、用意してよかったです。

 

サブコンテンツ:自炊料理の香りを「蒸留」で保存し、香り展示

ゲームで収録される料理の写真は、私のキッチンで実際に作っています。その料理の一部を100BANCHプロジェクトのBioCraftの協力のもと、蒸留技術で香りを保存し、ナナナナ祭で体験展示しました。

ゲーム試遊を終えた方に、ゲームで登場した料理の実物の香りをご体感頂き、一層記憶に焼きついたとの感想も頂きました。

 

誰かをすくい、自らの世界線を拓く「ジスイ」

誰かをすくい、自らの世界線を拓く、ジスイの約束をしよう

ナナナナ祭用の子供向けエピソードは、同じ100BANCHプロジェクトのMUD ABOUTの畑プログラムご参加者 兼 ブーススタッフ様からご提供頂きました。すなわち、自炊から運命の世界線を拓いたご本人様が、ナナナナ祭の会場ですぐそばに居た事が、試遊を終えた方に開示され、究極の説得性を与えます。

誰かをすくう事も、自らのエンドを拓く事も、匙(さじ)を投げず、匙を取り、フタしなければ、十分実現できるとノンフィクションで示しています。

 

最後に

ナナナナ祭という場を下さりました100BANCH事務局様、ご来場頂きました200名近いお客様に、改めまして多大なる感謝を申し上げます。

次に時空に漂うのは、あなたの実話かもしれません。

次にすくわれるのは、あなたの未練かもしれません。

だから、、、
「 思い出の たべのこし すくいませんか? 」

名もなき ごちそうに 眠る ジスイがまだまだ あなたを 待っています。

 

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