私たちは、自走型ロープウェイの実現を目指すプロジェクトです。

Ropeway Innovation!
私たちは、自走型ロープウェイの実現を目指すプロジェクトです。
「もし、エレベーターがなければ、縦方向への移動がとても大変です。おそらく、エレベーターという交通システムがなければ高層ビルも世の中に生まれていないでしょう。僕は、そういう乗り物が好きなんです。辛いことがあったとしても、乗り物が社会に生まれて人々の価値観を変えていく、その瞬間をすごく見たい、と思っています。」
そう話す須知高匡は、GARAGE Program28期生「Ropeway Innovation!」として2019年11月に100BANCHに入居。自走式ロープウェイZipparの一人乗りモデル(簡易版)の制作に取り組み、2020年夏に実証実験を行いました。その後も資金調達やハードウェア開発を進め、さらには多数の自治体と連携してZipparの導入に向けて挑戦を重ねています。
そんな須知が、活動にかける想いの大切さ、プロジェクトを進めてきた中での迷いや葛藤を話しました。
須知高匡|Zip Infrastructure株式会社 代表取締役社長 慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業。幼少期より乗り物と宇宙が好きで、大学にて宇宙エレベータの研究を行う。実現のためには資金面と技術面の両輪をクリアすることが必要と気づき、2018年7月、Zip Infrastructure株式会社を設立し、代表取締役に就任。エレベータ並みにZipparを普及させ、世界中の渋滞を解消し、地球と宇宙の壁がなくなる未来を目指している。 |
——まず須知は、空を走る次世代の都市交通「Zippar」について紹介しました。
須知:Zip Infrastructure株式会社 代表の須知と申します。自走式ロープウェイ「Zippar」という交通システムをつくっている会社です。日本には便利な交通システムがありますが、海外、特に東南アジアではそうとは限りません。また近年、日本国内でも、地方でのバスの運転手不足や路線減少が深刻化しています。これをなんとかしたい、なんとかできる、と思っているのが我々の会社です。
須知:我々が開発している「Zippar」は一般的なロープウェイと異なり、自走式ロープウェイでカーブも走ることができます。そして、鉄道の10分の1、モノレールの5分の1という低コストで建設することができる交通システムです。安くつくることができ、カーブも設置でき、風にも強く、自動運転で運転手不足にも対応できるため、従来の交通システムより高い費用対効果を実現します。世界でもこの自走式ロープウェイの領域に取り組んでいるのは4社だけで、日本では私たちだけです。
100BANCHに入居した当初は、模型や1人乗りの試験機をつくっていました。2018年の段階で会社を設立していて、いろんなVC(ベンチャーキャピタル)を回っていたのですが、当時は誰からも相手にされませんでした。しかし、今では出資や補助金などで約15億円を集めて開発ができるまでになりました。その結果、一昨年、昨年と、神奈川県の秦野市に試験線を設置しロープウェイの試乗会を行うことができました。ありがたいことに、海外を含め様々な都市での導入の調査などをしていただいています。
——ここから須知は自身の選択を振り返りながら、プロジェクトの進め方について語ります。資金調達や法人設立をするか・しないかなど、プロジェクトをどのように成長させていくかは、多くの100BANCHメンバーが悩むテーマです。
須知:ちょっとここで、資本主義の話をしましょう。VCからの投資をすでに受けているプロジェクトや望めば投資を受けることができるプロジェクトと、その対極にいるようなプロジェクトがあると思いますが、100BANCHは、このごちゃまぜ感がすごくいいなあと思っています。「本当に、資本主義のテーブルで戦うことを選択しますか?」という点は100BANCHでも話題にあがることがあったのですが、これはすごく難しくて、我々も3年間は出資を受けることができませんでした。結局その後、出資を受けるのですが、資本主義に乗り、出資を受けるためにプロジェクトの形を変えていく、ということも起きます。それはプロジェクトを加速させたり、続けるためではあるのですが、「起業家にとって本当に最も良い選択のかな?」と、今でも考えることがあります。
もちろん、数千万、数億という資金を手に入れ、プロジェクトが加速度的に進むのは良いことです。一方で、資本主義のテーブルに乗ると失われるものもあると思います。費用対効果を厳しく気にしなければいけなくなるため、会社の事業としてではなく、趣味でやっている方が幸せというパターンもあると思うんです。僕自身、ある意味で趣味を仕事にしたような形ですが、そうすると趣味がなくなり、すべてが仕事のようになっていきます。会社にしたり資本主義に乗ることで、そこで「遊ぶ余地」や「余白」のようなものは失われていきがちです。会社で人を雇用するとなると、会社をつぶすわけにはいきません。そうすると時には、自分の本来の想いとは会社が離れていく可能性があるわけです。みなさんも自分のプロジェクトを進めたい気持ちは強くあると思いますが、出資を受ける前に、本当にそれをメインの活動としてやっていくのかを考えることはとても大事だと思います。
須知:さらに資本主義の中でも、VCから出資を受けると、いつまでに上場させなければいけない、などの制限がつきます。10年ほどで売上20〜30億円の会社をつくらないといけなくなるんです。もちろんどんなプロジェクトでも事業計画は書けますが一方で、元々急激に伸びる性質でない領域やプロジェクトを、事業計画に無理矢理合わせようとすると失敗する確率が高くなってしまいます。急激な成長を求められ、取れる選択肢も狭くなることも多々あります。究極的にはもはや、自分の会社ではなくなる可能性もあるということです。自分がやりたいことをやるためにプロジェクトを始めて会社を設立したはずなのに、自分はいつでも解任されうる立場になってしまうのです。
これを、会社を設立せず、趣味の段階で留めておいたとしたら。やめたくなったら好きにやめられるし、自分がやりたい方向に舵を切れるわけです。その場合プロジェクトは早く進まないかもしれませんが、そのような事業の進め方が持つ可能性が、今は軽んじられているのではないかと感じています。
ある意味、非資本主義的な活動を受け入れられる100BANCHは面白いです。通常のインキュベーションやVCでは、売上見込みのない活動を受け入れるのは難しいです。100BANCHには、自分が大事にしていることを軸にプロジェクトを進めている人が集まっているからこそ、会社にするのが正しいのか、出資を受けるのが正しいのか、よく考えて進んでいただけたらなと思います。
須知:今回、みなさんの実験報告ピッチを聞いていて、慣れていて上手だしフォーマットも完璧ですごくキレイだと思いました。実は僕が今日ここに来た役割の1つは失敗を話すことです。「もっと失敗してもいいんだよ」というメッセージを込めて、僕の失敗の事例を2つ話そうと思います。
——そう言うと須知は、自身の失敗談を共有してくれました。現在となっては動画やSNSコンテンツ、広報活動などの形でかっこいい姿を見ることのできる「Zippar」ですが、そこに至るまでには文字通り「絶体絶命」の逃げ出したくなってしまうような失敗を一つずつ乗り越えてきた日々がありました。時には昨日まで仲間だったメンバーと大喧嘩をしたり、資本主義社会の中で会社を成長させようとすると、様々なことと向き合う必要があります。
須知:じゃあ、なんでそんなに辛いことや失敗があっても、この事業をやっているのか。それは、僕が「世の中に交通システムをつくってみたい」とすごく、心から思っているからです。今日、電車やエレベーターなどの移動手段は生活の中で当たり前に使われていますが、これも誰かが開発したものなんです。電車や蒸気機関は200〜100年ほど前、エレベーターができたのも100年ほど前と、つい最近なんです。エレベーターがない世界、想像できるでしょうか。もし、エレベーターがなければ、縦方向への移動がとても大変です。3階から5階までの階段なら平気かもしれませんが、10階はさすがにキツイですよね。おそらく、エレベーターがなければ高層ビルも世の中に生まれていないでしょう。もし、エレベーターが誕生する前の世界にタワマンがあったとすれば、1階・2階が最も価値が高いです。逆に39階・40階なんて価値が低いはずですが、それをエレベーターがひっくり返しました。エレベーターという新しい交通システムの誕生により、縦の移動コストがほぼ0になったわけです。それで現在、タワマンの低層階より高層階の方が価値がありますよね。僕は、そういう乗り物が好きなんです。辛いことがあったとしても、乗り物が社会に生まれて人々の価値観を変えていく、その瞬間をすごく見たい、と思っています。
須知:プレゼンなどでは「世界をよりスムーズに」という会社のビジョンを語ることが多いですが、それより前に「交通システムをつくりたい」「社会が変わる瞬間を見てみたい」、そんな想いが自分自身の中にも強くあるからこそ、これまでの失敗やミスを乗り越えられたのだと思います。
全員がそうではないかもしれませんが、みなさんもこれから、「会社として」「よりスピード感を持って」とやっていくと、大変なこともあると思いますし、色々なものを失って、色々なものを得る、という状況になると思います。僕が7年間やってこられたのは、自分の根底にある想いのおかげでした。みなさんも自分たちのそういう想いがあったら、それをすごく大事にしてあげるといいと思います。