• リーダーインタビュー

「害獣」か「資源」か。命の扱われ方を問い直す鹿革サンダル——Re:Spect:下吹越直紀

2025年の漢字には「熊」が選ばれました。熊による多数の被害によって、「獣害問題」を意識するようになった方も少なくないのではないでしょうか。

Re:Spectを手がける下吹越直紀は、獣害問題を「発酵と腐敗みたいなもの」だと捉えています。同じ分解のプロセスでも、人にとって都合がよければ発酵と呼ばれ、悪ければ腐敗と呼ばれる。動物もまた、人間側の文脈によって意味づけを変えられてきた存在なのではないか、という問いです。

「害獣は駆除された後、その9割以上が利活用されることなく処分されている」と話す下吹越。そうした現実を前に、彼は鹿革のサンダルづくりに取り組みながら「命をどう扱い、どう語るのか」に向き合っています。

下吹越の現在地と、その先にある社会への問いを聞きました。

サンダルにした瞬間、迷いが晴れた

──GARAGE Program期間が終わって、現在はサンダルのプロトタイプを制作しているそうですね。今日はそのサンダルを持ってきていただいているとのことで、ありがとうございます。

下吹越:実は今日、持ってくるか迷いました。「忘れちゃいました」って言おうかなとも思ったりして(笑)

──持ってきてもらえて良かったです(笑)。ジビエレザーの質感を感じられますし、何より見た目がカッコイイです。……なぜ持ってくるのを躊躇したのでしょうか?

下吹越:これはサンプルの第1号なので、まだ全然納得いっていなくて。内側の部分をもっとパキッとさせたいし、ベルト部分のデザインも変えたいし、色味ももっと一目で藍染ってわかるようにしたいし……「革が利活用されていないからつくる」のではなくて、プロダクトとして欲しくなるカッコイイものをつくりたいんです。だから今日はどんな反応をいただくか、ちょっとこわい部分もありました。喜んでいただけて良かったですが、まだまだ改良したいです。

──元々はサンダルではなく、スニーカーづくりからはじまったプロジェクトでしたよね。

下吹越:はい、100BANCHに応募したときは、ジビエレザーを使用した藍染めのスニーカーを形にしたいと思っていました。実際、プロトタイプも何パターンかつくっていて、そのまま進めていれば、GARAGE Program期間中に販売を見据えたクラウドファンディングまで実施できていたと思います。

だから結構、サンダルにピボットするときは迷いました。現実的な問題として、スニーカーだとサイズ展開がどうしても多くなるし、カラーとサイズを掛け合わせると在庫リスクが一気に大きくなってしまう。それに「革の質感をどう伝えるか」悩んでいました。鹿の革って、すごく柔らかくて、触ったときの気持ちよさがある。もっとそれを感じてもらえる形はないかなとモヤモヤしていました。

なにより、スニーカーは正直、自分の中であんまりピンときていなかったんです。元々、コンペを目指して制作したこともあって、コンペ用にキャラクターが強いものをつくっていました。実際に販売するならもっと一般の人が日常使いしやすいものにしたいと思ったのですが、試作を重ねても、どうも売れるイメージが湧かなくて。サンダルに切り替えたときは、「あ、これだな」って、スンと腑に落ちました。

当初制作していたスニーカー。LVMHジャパン社長が審査員長を務める東京都のファッションコンテスト《Sustainable Fashion Design Award》では、ファイナリストに選出されました。

──自分の感覚に正直に従ったんですね。それにしても靴からサンダルって、簡単に転換できるものなのでしょうか?

下吹越:最初はサンダルの構造もわからない状態だったので、まずは既存のサンダルの構造を研究して参考にしてみたり、職人さんに話を聞いてみたりしながら、自分で手を動かしてつくってみました。このサンプルも、ソールの圧着だけは専門の業者さんにお願いしましたけど、アッパーの部分は自分でミシンで縫っています。鹿革はすごく柔らかいので、形が負けてしまう部分もあって、つくるのにすごく時間がかかってしまいました。牛革や豚革など、扱いやすい革も使ってサンダルの形をカッコよくしたいな……と思いつつ、元々、害獣が駆除された後、活用することなく廃棄されていることに目を向けてつくりはじめたプロダクトなので、そのストーリーはわかりやすくしたいですし。ストーリーと、純粋なモノとしてのカッコよさのバランスの間で、揺れています。

 

傷があるから惹かれた、獣害問題との出会い

──Re:Spectでは、ジビエレザーを素材として扱っていますが、そもそも獣害問題とはどのように出会ったのでしょうか?

下吹越:21歳のとき、オーストラリアから帰国して東京で暮らしはじめた頃、散歩が好きで、浅草あたりをよく歩いていたんですが、たまたまジビエレザーを扱っているお店を見つけて。一見さんお断りみたいな雰囲気で、正直かなり入りづらかったんですけど、気になって入ってみたのが最初です。

そこで初めて、鹿や熊といった野生動物の革が、ほとんど活用されないまま廃棄されている現実を知りました。実際にその場で財布を買ったんですが、触った瞬間に「全然ちがうな」と思ったんです。野生動物の革って、傷が多いんですよ。山を駆け回って、木に擦ったり、争ったりして生きてきた痕跡がそのまま残っている。家畜の革みたいに均一で綺麗ではないけれど、「ああ、生きてたんだな」という感じがすごく強くて。むしろ、その傷がいいなと思いました。

傷がある革は返品の対象になりやすかったり、百貨店では扱ってもらえなかったりすることもあります。個体差も大きいので、つくり手側からすると扱いづらい素材でもある。でも、それって裏を返すと、「効率」や「均一さ」を前提にした現代の価値観の中で、こぼれ落ちてきたものなんだと思うんです。

──「捨てられているから使う」というより、別の価値があるという見方を提示したい、という思いが感じられます。

下吹越:そうですね。かわいそうだから使う、もったいないから使う、という文脈にはしたくなかったです。単純に素材として面白いし、表情があるし、プロダクトとして成立させたいと思いました。もちろん、今90%以上が活用されていないということはそこに難しさがあるということでもあります。実際に扱ってみると、同じ鹿革でも伸び方が全然違ったりするし、加工のロットの問題も実感しました。ハンターさんも高齢の方が多くて、70〜80kgもある鹿を山から運び出すのは本当に危険ですし、時間と労力のわりに、得られる対価が少ないという構造もあります。

簡単に「使えばいい」という話ではありません。でも、だからこそ、この素材をどう扱うかを考えること自体に意味があると思っています。

──偶然入ったお店で聞いた話がここまでの行動になるほど心に残ったということは、それ以前から「捨てられるもの」や「消費のあり方」に何か思うことがあったのでしょうか?

下吹越:当時、クライアントワークもしていたんですが、どうしても「短期間でつくって、役目を終えたら終わり」というものが多くて。  撮影用につくったものが、数日で廃棄される現場を見ることもありました。それ自体を否定したいわけではないんですけど、  「これは何のためにつくっているんだろう」と思う瞬間があって。  そういう経験があったからこそ、ジビエレザーの「生きてきた痕跡が残る素材」に、強く惹かれたんだと思います。

 

自分の足で経験を稼ぐ現場主義

──職人さんのお店が入りづらい雰囲気だったように、野生動物の狩猟や、伝統染色などは敷居が高くて、若者や新参者は入りづらいイメージもあるのかなと思います。

下吹越:それは確かにありますね。でも自分の場合は、直当たりが多かったです。 問い合わせたりとか。 Webサイトがなくて、連絡先もよくわからない事業者さんも結構いるんですけど、そういうところには訪問して「こういうことに興味があって」と話しかけていました。自分が何も知らないからこそ、できた部分もあると思います。「全然わかってないんですけど」って前置きができるというか。若者の特権みたいなものを、今のうちに使おうと思っていましたね。

実際に会話をしてみると、事業者さん側も行き詰まっていることが多かったです。後継者がいなかったり、どう続けていけばいいか悩まれていたり。こちらは何も知らない立場ですけど、だからこそ素直に話を聞けたし、向こうも話してくれた気がします。

──サンダルのつくり方を聞きに行ったり、ちょっと入りづらいお店で獣害問題について聞いたり。すごく、自分で行動して扉を開いていますね。昔からそうだったのでしょうか?

下吹越:2021年に上京したんですが、ちょうどコロナ禍の真っ只中で。仕事が終わっても飲み会はないし、街も時短営業で閉まっている。新しい友人もコミュニティもできなくて、「自分から動かなければ何も始まらない」という危機感がありました。

そんなとき、美容院で手に取った雑誌『Pen』で、クリエイティブディレクターの山本海人さんを知りました。「この人と話してみたい!」と思ってすぐにInstagramでDMを送ったんです。するとその日の夜に、「今から来れる?」と道玄坂に呼び出されました。22時を過ぎていて、外は雨で……正直一瞬迷いました。でも「ここで動かなければ」と思って向かいました。

その日は海人さんご本人はいらっしゃらなくて、右腕的存在の直輝(なおてる)さんが話を聞いてくれました。帰り際にこう言われたんです。「もし『行けません』って言ってたら、海人さんから『会わなくていい』って言われてたよ」って。

そのとき、チャンスってこういうものなんだなと思いました。

──その後、実際に山本さんと会われたのですね。

下吹越:はい。ただ当時の自分は、何者でもないことを隠そうとして、海外経験や知識を必死に話していました。すると海人さんに言われたんです。「なおくん、それって他人の話だよね。お前から出てくる話を聞かせてくれ。知識は調べればわかる。一次情報を聞かせてよ」って。

その言葉が本当に刺さりました。自分の言葉で語るには、自分で経験を取りに行かないといけない。そこから、「一次情報を取りに行く」という感覚が、自分の中で軸になりました。海人さんは当時実績のなかった自分に、「BUY ME STAND*」や「SON OF THE CHEESE*」に関わる仕事を“宿題”として与えてくれました。期待を超える答えを出すのは簡単ではなかったですけど、その問いに必死に向き合うプロセス自体が、自分の東京での活動の原点になっています。

 BUY ME STAND:山本さんがプロデュースを手がけたサンドイッチスタンド。
 SON OF THE CHEESE:山本さんがディレクションに携わったファッション/カルチャーブランド。

一昨年亡くなられた海人さんから教わった「自分の足で経験を稼ぐ」という姿勢は、今も自分の中に深く残っています。

 

獣害は発酵と腐敗みたいなもの

──その「一次情報を取りに行く」姿勢が、狩猟の現場に足を運ぶことにもつながっているのでしょうか。

下吹越:今も定期的に、猟師さんのところに行かせてもらっていて、現場で命と向き合うことを大事にしています。狩猟の瞬間だけじゃなくて、捕獲して、解体して、そのあとどう扱われていくのかまでを見るようにしていて

革だけを切り取ってプロダクトにすると、どうしても「きれいなストーリー」になってしまう気がするんです。でも、実際の現場はそんなに整っていない。匂いもあるし、しんどいし、正直、目を背けたくなる瞬間もある。それを見ないまま語ると、どこかで嘘になる気がして。だから、時間がかかっても現場に行く。自分の身体で受け止めてからじゃないと、この素材を扱う資格がないと思っています。

「かわいそう」「もったいない」という感情だけで終わらせると、それもまたただ消費するだけになってしまう。だからこそ、自分は現場に立って、どう生きて、どう死んだのかを見続けたいです。きれいにまとめるためじゃなくて、フェイクにしないために。

──現場で命と向き合う中で、下吹越さんは獣害問題をどのように捉えていますか?

下吹越:発酵と腐敗って、どちらも微生物が分解しているプロセス自体は同じですよね。納豆やヨーグルトみたいに、人の健康に良い方向に作用すると発酵と呼ばれるし、食べたら体調を崩してしまうようなものだと腐敗と呼ばれる。でも、起きていること自体は、同じ「分解」なんです。

獣害もそれと似ていると思っています。例えば、雑草を食べてくれるヤギは、文脈によっては「益獣」として扱われます。でも、農作物を食べてしまうと、同じ動物でも「害獣」になる。動物そのものが変わったわけじゃなくて、人間側の都合や環境によって、意味づけが変わっているだけなんだと思います。

だから、自分がやりたいのは、獣害を「なくす」ことというよりも、その文脈を問い直すこと。どういう関わり方をすれば、発酵のほうに向かうのか。その余地は、まだまだあると思っています。

究極的には、「獣害」という言葉がなくなったらいいなと思っています。問題がなくなる、という意味ではなくて、単純に「害」と切り捨てる言葉じゃなく、もっと複雑な関係性として捉えられるようになったらいいなと。

──その視点で見ると、Re:Spectはこれから取り組むことがたくさんありそうですね。

下吹越:今は主に鹿の革を扱っていますけど、例えば熊の革もありますし、地域によって状況も全然違う。素材の扱い方も、プロダクトの形も、まだまだ試せることはたくさんあります。一つの正解にたどり着いた、という感覚はまったくなくて。むしろ、やることが増えていく感覚に近いです。

だからこのプロジェクトも、「完成させる」というよりは、 問い続けるための形を少しずつ増やしていきたいです。獣害をどう扱うか、命とどう向き合うか。決めつけずに考え続けられる状態をつくれたらいいなと思っています。

 

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