
「自分は大丈夫」が、いちばん危ない。〜ニセ警察詐欺体験ラボ〜

世界から詐欺をなくすことを目指すプロジェクト「ToI Nexus」。これまで、高齢者の特殊詐欺被害問題を解決するプロダクト「サギ止め太郎」などを開発してきました。最近では高齢者だけでなく若い世代を狙った詐欺も広がっており、なかでも警察官をかたる「ニセ警察詐欺」は20-30代も多くの被害に遭っているといいます。
こうした実情を受け、ナナナナ祭2026では体験プログラム「『自分は大丈夫』が、いちばん危ない。〜ニセ警察詐欺体験ラボ〜」を実施。来場者にニセ警察からのチャットや電話を擬似体験してもらい、人がどのように騙されていくのかを知ることから、詐欺防止について考えてもらいました。その模様を、ToI Nexusの橋本知秀と西谷颯哲が振り返ります。
私たちは、代表の西谷が実際に詐欺被害にあったことをきっかけに、電話詐欺を検知するアプリケーションの開発に取り組んでいます。近年、特殊詐欺や電話詐欺による被害は深刻化しており、ニュースでも頻繁に取り上げられています。しかし、開発を進める中で私たちが感じていたのは、「詐欺は知っているけれど、自分は騙されない」と考えている人が非常に多いということでした。
実際には、高齢者だけでなく、若い世代や働く世代も被害に遭っています。詐欺師は巧みな話術や心理的な誘導を用い、相手を焦らせたり安心させたりしながら判断力を奪っていきます。どれだけ詐欺の手口を知っていても、その場の状況では冷静な判断ができなくなる可能性があります。
そこで私たちは、「知識を伝えるだけではなく、実際に体験してもらうことが防犯意識の向上につながるのではないか」という仮説を立てました。ナナナナ祭という多様な人が集まる場だからこそ、幅広い年代の方に電話詐欺を身近な問題として考えてもらえる展示ができるのではないかと考え、今回の企画を立ち上げました。

企画を進める中で最も議論したのは、「どうすれば来場者に興味を持ってもらえるか」ということでした。電話詐欺というテーマは社会的に重要である一方、展示としては堅い印象を与えやすく、説明を読むだけでは足を止めてもらえません。そこで私たちは、展示を見るだけではなく、来場者自身が詐欺電話を受ける立場になる体験型のプログラムを企画しました。体験を通して、「もし自分だったらどうするだろう」「今の自分なら見抜けるだろうか」と自然に考えられる展示にしたいと思ったからです。
また、展示に参加する心理的なハードルを下げるため、お菓子を用意し、気軽に立ち寄れる雰囲気づくりも行いました。防犯という重いテーマだからこそ、入口はできるだけ親しみやすくすることを意識しました。
展示後には、現在増えている電話詐欺の手口や被害状況、そして私たちが開発している詐欺検知アプリについて紹介しました。アプリを紹介することが目的ではなく、「なぜこのような技術が必要なのか」を体験を通して理解してもらうことを大切にしました。

展示期間中は、学生から社会人、ご家族連れまで、さまざまな方に参加していただきました。最初は「簡単に見抜けそう」と話していた方も、体験が終わる頃には「意外と難しかった」「焦ると判断できなくなりそう」と話してくださる場面が多くありました。
「ニュースでは知っていたけれど、自分が電話を受ける立場になると全然違う」「実際に体験するとリアルだった」「家族にも体験してほしい」といった感想も多くいただき、私たちが企画段階で考えていた「体験することで自分ごとになる」という仮説に手応えを感じることができました。また、「こういうアプリがあるなら親にも使ってもらいたい」「高齢の祖父母にも紹介したい」といった声もあり、展示をきっかけに私たちの活動へ興味を持っていただくこともできました。
展示中は、一人ひとりとできるだけ会話をすることも意識しました。体験後に「普段から詐欺対策をしていますか」「どんな電話なら怪しいと思いますか」といった質問をすると、多くの方が自分自身の経験や家族の話をしてくださいました。単に展示を見てもらうだけではなく、対話を通して来場者の考えを知ることができたことも、ナナナナ祭ならではの大きな収穫だったと感じています。

今回、私たちが最も検証したかったのは、「電話詐欺を体験することで、防犯意識は高まるのか」という点でした。展示後の感想や来場者との会話を通して、多くの方が「自分は騙されないと思っていたが、考えが変わった」と話してくださいました。
一方で、高齢者以外にも詐欺被害が広がっていることを知らない方が想像以上に多いことも分かりました。詐欺というと高齢者だけの問題だと思われがちですが、実際にはSNSやスマートフォンの普及によって、若い世代を狙った詐欺も増えています。この認識のギャップは、今回の展示で改めて強く感じた課題でした。
また、展示運営についても多くの学びがありました。来場者向けに用意したお菓子は想像していたほど減らず、「参加しやすい導線」をつくるには、配布物だけではなく、展示の見せ方やスタッフからの声掛けも重要であることが分かりました。展示内容そのものだけでなく、「どうすればより多くの人に参加してもらえるか」という点についても改善のヒントを得ることができました。

今回の展示を通じて改めて感じたのは、電話詐欺の問題は技術だけでは解決できないということです。もちろん、AIやアプリによる詐欺検知は非常に重要です。しかし、それだけではすべての被害を防ぐことはできません。
電話に出る人自身が「少し怪しいかもしれない」と立ち止まれること、家族同士で詐欺について話し合えること、社会全体で防犯意識を高めていくことも同じくらい重要です。今回の体験型展示は、そのための第一歩として大きな意味があったと感じています。

私たちは今後も、電話詐欺体験会や防犯イベントなどを継続し、より多くの人に電話詐欺を身近な問題として考えてもらえる機会をつくっていきたいと考えています。
また、展示を通して得られた来場者の意見や感想を、現在開発している詐欺検知アプリの改善にも反映していきます。実際に利用する人の声を取り入れることで、より使いやすく、より多くの人を守れるサービスへと成長させていきたいと考えています。
さらに、警察や自治体、防犯活動を行う団体、教育機関、企業など、電話詐欺対策に取り組むさまざまな方々と連携し、技術と啓発活動の両面から被害防止に取り組んでいきたいと思います。
ナナナナ祭は、私たちの活動を発信する場であるだけでなく、社会のリアルな声を聞き、新たな課題を発見する実験の場でもありました。今回得られた学びを次の開発や活動へとつなげながら、「自分は騙されない」という思い込みを減らし、一人でも多くの人が安心して暮らせる社会の実現を目指して挑戦を続けていきます。