世界最大の折り紙の祭典「Origami World Expo」を開催! 日本発の「折り紙産業」を創造する

Apriori.Art - Origami Project
世界最大の折り紙の祭典「Origami World Expo」を開催! 日本発の「折り紙産業」を創造する
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Apriori.Art Co-founder Hiro Kano(加納宏徳)


折り紙は仕事にならない──10歳で第2回日本折紙コンテストの最高賞グランプリを受賞しながらも、加納宏徳はそう考えていたと言います。
本物の標本のようにも見えるカブトムシや、今にも動き出しそうなシカ、羽ばたいていきそうなインコ。「Apriori.Art - Origami Project」が手がける折り紙作品は、どれも一枚の紙で折られているものです。折り紙をアートとして再定義しながら、展示・作品制作・ワークショップ・企業や地域との連携を通じて、折り紙アーティストが活動できる市場や文化をつくる。そんな挑戦をするApriori.Art - Origami Projectのリーダー加納はかつて「折り紙だけでは生きていけない」と考え、独学で英語やWebのスキルを身につけながら別の道を歩んできました。
折り紙とは何か。そして折り紙は仕事になるのか。作品づくりと市場づくりの両方に取り組む加納に、その原点とこれからを聞きました。
──加納さんは10歳で折り紙コンテストのグランプリを獲っていたり、一方で学校教育の枠組みから離れて、英語やWebスキルを独学で身につけて外資系IT企業で働いていたり。しかも今また折り紙に戻ってきていますよね。まず、ご自身ではこの経歴をどう捉えていますか?
加納:どうなんでしょうね(笑)。自分の中ではそんなにバラバラなことをやっている感覚はないです。確かに折り紙からはじまって、英語を勉強したり、Webマーケティングをやったり、起業したり、スタートアップで働いたり。色々やってきました。でも、その時々で「今の自分に必要なもの」を取りに行っていただけなんです。
昔から計画を細かく立てるタイプではなくて。もちろん「こうなっていたい、こう在りたい」という大きな方向、ビジョンのようなものは持っているのですが。今こうして100BANCHで折り紙の話をしているなんて全然想像していなかったので(笑)、未来って予想できないなと思っていて。だから「面白そう」とか「これは今後使えそう」と思ったものを学んできた結果が、振り返るとたまたま今のプロフィールになった感じです。
——折り紙コンテストのグランプリ受賞は現在のApriori.Artの活動にもつながる大きな出来事だと思うのですが、これも元々チャンピオンを目指していたわけではないのでしょうか。
加納:きっかけは「自分が折りたいカブトムシの折り図がなかった」だけなんです。折り紙って子どもの頃、折り方の説明書や解説本を見たり、ネットの情報を頼りにして折ることが多いですよね。僕もはじめは「折り図」を見て折っていました。
小学生の頃、「ムシキング(平成時代にキッズ世代を中心にブームになったアーケードゲーム『甲虫王者ムシキング』)」が流行っていて、僕自身もカブトムシがすごく好きだったんです。でも、自分が折りたい種類のカブトムシの折り図がありませんでした。カブトムシといっても、色んな種類がいますから、それぞれちょっとずつ角の特徴なんかも違うんです。だったら自分で作るしかないな、と。
図鑑を見ながら、「この種類のカブトムシは角の形がこうなっている」とか「ここの爪はこうなっている」とか、細かい部分を観察して、それをどうやって紙で再現できるかをずっと考えていました。賞を取りたいというより、好きなカブトムシをもっと本物っぽく作りたかったんです。だから、コンテストも「世界一になりたい」という感覚ではなくて、「せっかくだから出してみよう」くらいだったと思います。結果としてグランプリをいただいたんですが、自分の中では「好きなものを作っていたら、たまたま評価してもらえた」という感覚の方が近いですね。

作品名「昆虫大図鑑2.0」。10歳の頃に折ったカブトムシに他の種類を加えた進化版。
——「勝ちたい」というより「もっと面白いものを作りたい」が先にあったんですね。
加納:折り紙の面白さって、自分の想像力と工夫次第でどんなものでも作れてしまうところなんです。カブトムシを折るときも、図鑑を見ながら「この角の形をどう再現しよう」と考えたり、「この羽の構造を紙で表現できないか」と試したり。それで上手く再現できると、めちゃくちゃテンションが上がります(笑)。こだわればこだわるほど、できることが増えていくんですよね。
僕は5人兄弟なのですが家庭がそんなに裕福ではなくて、家には人数分のおもちゃやゲームはありませんでした。だから、やることがなくて本当に暇で(笑)。でも折り紙は100円で買えば何時間も遊べるし、自分で工夫すれば新しいものがどんどん作れる。「コスパ最強」ですよね。そういう意味では、子どもの頃の僕にとって最高の遊びだったと思います。
──そこまで夢中になっていた折り紙ですが、加納さんは早い段階で「折り紙は仕事にならない」と考えていたそうですね。
加納:そうですね。多分コンテストでグランプリを受賞した後、10歳か11歳くらいの頃だったと思います。親から「将来は自分で稼ぎなさい」と早くから言われて育ったこともあって、子どもながらに「将来は仕事をしなきゃいけないんだな」「どうやったらお金を稼げるんだろう」という感覚を持っていました。
折り紙は好きでしたが、周りを見渡しても折り紙で生活している人を見たことはありませんでした。図書室で「しごと図鑑」のような本を開いても「折り紙職人」なんて職業は載っていないし、「あれ、これってもしかして……。折り紙を仕事にするのは、難しい?」と子どもながらに思ったんですよね。
──当時は「折り紙を諦めた」という感覚だったのでしょうか?
加納:いや、諦めたという感覚はなかったと思います。折り紙はずっと好きでしたし、やめようとも思っていませんでした。ただ、折り紙だけでは生きていけないだろうなと思ったので、それ以外の武器を身につけようとしました。高校、大学、大学院と最終的にどこまで勉強してから働くか、と色々考えもしたのですが、でもどこかのタイミングでいずれ働きはじめるんですよね。それなら先に働いてみてもいいんじゃないか?と思って、小学校を中退して働くための勉強を一人ではじめました。
当時はインターネットが普及しはじめた頃で、英語ができれば海外の情報にもアクセスできる。Webサイトも自分でつくれるようになれば発信もできる。そういうふうに、自分の可能性を広げてくれそうなものを少しずつ学んでいきました。結局10年ほど独学で様々なことを学んでいたのですが、振り返ると「折り紙をやめて別のことを始めた」というより、「折り紙を続けるために必要そうなものを集めていた」に近かったのかもしれません。

——周囲よりも早くから独学で勉強したり企業で働く中で、どんなことを感じていたのでしょうか。
加納:結果的に19歳頃から社会人として働いていたのですが、印象に残っている体験の一つに、伝統工芸のEC事業に携わった経験があります。そのECサイトには本当にすごい職人さんたちの作品が揃っていて。ゲームで例えるなら「レベル99」みたいな職人さんたちなんですよ。国からも認められていて称号も得ている。しかし、それだけでは生活できない現実を目の当たりにしました。もちろん作品のクオリティは最高です。でも、良いものをつくるだけでは必ずしも売れるわけではない。どうやって知ってもらうのか、どうやって価値を伝えるのか、どんな人に届けるのか。そういった部分がないと、どれだけ優れた技術を持っていても仕事として成立させることが難しいという現実を知りました。
子どもの頃に「折り紙は仕事にならない」と思った話をしましたが、その経験を通して考え方も少し変わったんです。最初は「折り紙そのものが仕事にならない」と思っていました。でも実際はそう単純ではなくて。「良い作品をつくること」と「仕事として成立すること」は別の話なんですよね。だからこそ、作品そのものの他に、情報発信やマーケティング、お金が動く仕組みづくりも必要なんだと思うようになりました。今振り返ると、英語やWeb、マーケティングを学んできたことも、全部そこでつながった気がします。作品をつくる人であると同時に、その価値を届ける仕組みもつくらなければいけないんだなと。
──そうした気づきを積み重ねて、今のApriori.Artにもつながっていった、と。
加納:ええ。仕事で折り紙が好きなアメリカ人同僚との出会いにも恵まれて、彼と会話をしながらApriori.Artの構想を2019年頃から少しずつ考えていました。ただ、最初の構想は今とは違っていて。はじめは折り方や作品の作り方を発信するWebメディア・プラットフォームのようなものを考えていたんです。英語やWebを学んできたので、そうした知識を使いながら、もっと多くの人に折り紙の面白さを届けられないかなと考えていました。
当時すでに海外でも折り紙に興味のある人は多くいたのですが、Web上には正確な折り図や英語での情報は足りていなくて、そうした状況の課題解決にもなればと思っていました。みんなが簡単に動画編集ができるようになってYouTubeに動画を投稿するようになったように、折り紙ももっと多くの人が気軽に楽しめるようになればいい。当初はそんなことを考えていたんです。
──そのWebメディアの構想から、今のApriori.Artの形にどのように変化していったのでしょうか。
加納:Webメディアの構想を考えていた頃と今では、世の中そのものも大きく変わったと思います。当時は、正確な折り図や海外向けに情報を整理して多言語で発信するだけでも価値があると思っていたんです。でもAIが登場して、情報をまとめるコストはどんどん下がっていきました。今では調べたいことがあればAIに聞けばある程度答えが返ってくるし、コンテンツそのものも簡単につくれるようになっています。そうなったとき、「自分が本当にやりたいことは何だろう?」と改めて考えるようになりました。
もちろん情報発信は今でも大事だと思っています。でも、それだけでは人がわざわざ時間を使って集まる理由にはなりづらい。手触り感があって、唯一無二でコピーできなくて、自分にしかできないことは何だろう。AIでは代替できない価値は何だろう。そう考えるようになりました。

──そこからプロジェクトの方向性を少し変えて、100BANCHに入居したのですね。
加納:はい、ちょうど30歳を迎えるタイミングでもあったので、「このまま考え続けるのか、それとも一度ちゃんと挑戦してみるのか」を自分に問い直していました。1人で考えているだけだと、人っていつでも先延ばしにできるじゃないですか。永遠に「やるやる詐欺」になってしまうなと思って(苦笑)。僕の場合は、ある意味で自分を追い込む環境が必要だったんだと思います。それで100BANCHに入居したんです。3ヶ月という期限もあるし、たくさん発表の機会もある。考えているだけでは前に進まないので、とにかく一度飛び込んでみようと思いました。
最初は、100BANCHはもっとVC(ベンチャーキャピタル)のような場所だと想像していたんです。事業計画を考えて、仮説を立てて、収益性を追求してプロジェクトを進める。当時の僕はかなりそっちに偏っていました。そんなとき、則武さん(100BANCHオーガナイザー)から「君は本当は・・・もっと変態でしょ?」と言われたんです(笑)。
今思うと、僕は折り紙に向き合うというよりは、真面目にビジネスプランをつくらなきゃと焦っていたのかもしれません。そこに「もっと加納さん自身の面白さを出した方がいい」と言われて。僕は新しい折り紙を社会に届けたいと言いながら、自分でもどこかで無難な形に収めようとしていたのかもしれません。あのまま真面目にやっていたら、折り紙作品一つずつに値札つけて販売する、みたいな自分じゃなくてもできることをやっていたかも。でも100BANCHには、僕よりずっと変な人たちがたくさんいて(笑)。そういう人たちと出会う中で、「もっと実験していいんだ」と思えるようになりました。
──そんな気づきがあって、展示もどんどん進化していったのですね。
加納:100BANCHに入居するまでは、頭の中で「体験が大事なんじゃないか」「空間として見せることに価値があるんじゃないか」などと考えていたんですが、実際にやってみる機会はほとんどありませんでした。でもナナナナ祭では、自分が想像していた以上に多くの人が作品を見てくれたんです。作品そのものだけではなくて、作品を見ながら会話が生まれたり、写真を撮ったり、驚いたり。そういう反応を目の前で見ることができたんです。

ナナナナ祭2025展示作品「海亀」。素材はステンレス。創作・折りはApriori.Art所属アーティスト勝川東。

展示ブースにて、来場者と交流する加納。
それまでは折り紙作品をつくることが中心だったんですが、そこからは「どう見せるか」「どう体験してもらうか」を考えるようになりました。光や音と組み合わせたらどう見えるだろうとか、もっと大きな空間で展示したらどうなるだろうとか。考えること自体が変わっていったんです。面白かったのは、展示を重ねるたびに、ステージも大きくなっていったことですね。最初は作品単体だったものが、空間全体になり、地域との接点が生まれ、企業や行政との取り組みにも広がっていった。気づいたら、自分でも想像していなかった場所まで活動が広がっていました。
先日のハチ公3.0は、僕にとっても大きな挑戦でした。折り紙アート作品を展示するだけではなくて、秋田や渋谷など行政や企業の方々、他の100BANCHプロジェクトとも連携しながら、多くの人が関わるプロジェクトになったので。「みんなが知っているハチ公」を折り紙で再解釈していく過程自体がすごく面白かったです。一人で作品をつくるだけでは生まれなかった価値が、人との関わりの中から生まれていく感覚は、以前の僕にはなかったものだと思います。
────加納さんの作品を見ていると、「これも折り紙なんですか?」と驚く人も多い気がします。今日見せていただいたものからも、折り紙の定義を考えさせられました。
加納:日本で折り紙というと、やっぱり鶴のイメージが強いんですよね。子どもの頃に折った経験がある人も多いので、「折り紙とはこういうものだ」「子どもの頃の遊びだよね」という共通認識があります。でも実際には、折り紙ってもっと幅広い表現ができるんです。鶴でも羽根をもっと精巧に羽ばたかせたり、サンタクロースのような帽子を被った鶴を折ることもできますし、鶴以外にもいろんな生き物が折り紙で表現できます。
「これ一枚の紙でできているの!?切り込みもなしで!?」と言ってもらえると「やった〜」と思います(笑)。こっちの作品は、最近力を入れている表現で、アーティストのSHEERさんの抽象画作品を折ることで立ち上がらせています。これも紙を折っているので僕は折り紙アートと定義しています。

Apriori.Art で制作した様々な作品や、試作品。

アーティストSHEERさんとのアーティストデュオ「FoldingArts」のコラボ作品。
加納:僕がやりたいのは、単純に折り紙作品をつくることではなくて、折り紙としても成立していて、なおかつ唯一無二のアートとしても成立している作品をつくることなんです。単にリアルなカブトムシを作ろうと思えば、折り紙ではない方法の方が簡単かもしれません。でも僕は折り紙でやる意味を残したい。折り紙ならではの「折り紙感」を大事にしていて。あまりにリアルになりすぎると、今度は折り紙アートではなくなってしまう気がするんです。だから、どこまで抽象化するのか、どこまで再現するのか。そのバランスをずっと探っています。
────アーティストとして折り紙のあり方を探りながら、産業・文化としてのあり方も探っているのですね。その両方をやろうと思うのはなぜでしょうか。
加納:そうですね。僕自身は、正直なところ好きなものを好きなようにつくっていたいタイプなんです(笑)。でも、それだけでは続かないとも思っています。今も展示のお声がけをいただく機会は少しずつ増えていて、海外での展示やワークショップの予定も決まっています。でも現状はまだ制作費や展示費用を考えると、トントンか少し黒字くらいです。もちろん活動が続いていること自体は嬉しいですが、僕が本当にやりたいのは、自分1人が作品をつくり続けることではありません。展示を手伝ってくれる人や、一緒に作品をつくる人、将来出てくるかもしれない他の折り紙アーティストにも、ちゃんとお金が回る仕組みをつくりたい。
これまで新規事業の現場で働いてきた経験からも思うのですが、赤字のまま続く活動って、どうしてもどこかで無理が出てくるんですよね。継続できなければ文化にもならない。だから今年は、作品をつくることだけではなくて、どうすれば事業として成立するのかも真剣に考えています。文化を育てることと、事業として成立させること。その両方を実現するのが、今の僕にとっての大きなテーマですね。
───折り紙文化を広げるという意味では、まずは競技人口を増やすような考え方もありそうです。
加納:もちろん入り口を増やすことも大事で、当初Webメディアの構想をしていたときはボトムアップ的な考え方で、とにかく簡単なものでも楽しんで折れる人を増やそうと考えてました。でも今はどちらかというと、トップダウンに近い考え方をしているかもしれません。
例えば、鶴を折れる人はたくさんいますが、僕たちの作品のようなカブトムシや鹿を折れる人は多くありません。だからまずは「折り紙を極めるとこんな世界があるんだ」ということを知ってもらいたいです。展示を実施すると「これ本当に折り紙なんですか?」と驚かれることがよくありますが、その驚きが大事だと思っています。「折り紙って面白いな」「もっと知りたいな」と思うきっかけになるので。
────Apriori.Artの活動が続いた先に、どんな世界を見ていますか。
加納:折り紙が「子どもの遊び」という枠を超えて、1つの文化としてもっと自然に受け入れられていたら嬉しいですね。作品をつくる人がいて、それを楽しむ人がいて、それを仕事にできる人もいる。
将来、折り紙作品が何十万円、何百万円で取引されるようになったら、その世界を目指す人も増えるのではないか、と思っています。YouTuberも昔は「それ仕事になるの?」と言われていましたが、今では職業として認識されていて憧れる子どもも多くいます。それは「YouTubeで生きている人」が実際に現れたからだと思います。折り紙も同じで、作品を作る人がいて、それを仕事にできる人がいて、憧れる人がいて、次の世代が生まれる。そういう循環をつくれたら、文化としても続いていくんじゃないかなと思っています。
子どもの頃、「折り紙は仕事にならない」と思っていた自分がいました。でも今は「どうしたら産業が生まれるか」を考えています。折り紙アーティストという存在が当たり前になる未来を、少しでも前に進められたらと思っています。
