

SFの発想を手がかりに、マイノリティのラディカルでユーモラスな未来の生存を目指す
Minority Politics Research
プロジェクト概要
私たちはSFの発想を手がかりに未来のマイノリティの生存を目指すプロジェクトです。
私たちは『幼年期の終わり』や『あなたの人生の物語』に登場するようなSF的な時制の仮定、そして自らの⾝体的リサーチから未来を仮定/想像することで、⽣よりも死が近く未来や⽣存を想像することが困難な状況に置かれているマイノリティ当事者たちのために、ラディカルな⽣存戦略と相互ケアの⽅法、創造的なコミュニティ/セーファースペースをつくる実験を⾏います。
動機
社会構造の中で透明化され異物として扱われるマイノリティ属性を持つ⼈々にとって、今の世界は⽣よりも死の⽅が近く、⾃分たちがいつまで⽣き延びることが分からない。未来を想像することができない。右傾化していく世界の中で、その傾向はより強まっている。常に⽣存の困難にさらされ、「⽼い」や「未来」は⾃分たちには訪れないことのように感じる世界に⽣きている⼈々がいるということ。そしてそんな⼈々の声は届きづらいということ。マイノリティ属性を持つ⼈々が「未来の⾃分たち」を想像できるようになるために。未来への⽣存戦略を考えられるようになるために。当事者たちを中⼼としたクリエイティブなかたちのコミュニケーションとケアのプロジェクト≒コミュニティ≒セーファースペースをつくりたいと考えた。
仮説
① SF的時制について
例えば悪魔のように、過去からの⾔い伝えに存在する恐怖の対象は、実は「未来に悪魔のような存在が降臨した」という「未来の記憶」である。もしくは、光はこれから向かうべき最短距離を既に知っているというフェルマーの定理のように、時制とは過去から未来へと不可逆的に⼀⽅通⾏で進むのではなく、未来と過去も接続可能な円環的、もしくは全ての時制に接続可能な⽴体的なものである。その場合、過去・現在が未来の存在を逆説的に証明することも可能になる。
(参考:アーサー・クラーク『幼年期の終わり』、テッド・チャン『あなたの⼈⽣の物語』)
② 悪魔について
古典SF⼩説の代表作であるアーサー・クラークの『幼年期の終わり』に、⼈類を⽀配しに宇宙からやってきたオーバーロードと呼ばれる⽣命体が登場する。それはまるで「悪魔のような」⾒た⽬をしているが、それは未来の人類の恐怖の記憶が円環的に過去の人類のDNAに刻まれた結果、太古の⼈類が恐ろしいものを描くときに数千年後に現れるオーバーロードたちの姿を描いたため、それが悪魔と呼ばれていたにすぎない、という物語がある。
①のSF的時制についての仮説を元にすると、過去・現在に「悪魔(潜在的に恐怖を感じるもの)の概念が存在する」ということは、「未来に悪魔が現れる」ということを逆説的に証明することになる。アーサー・クラークにとっての悪魔は地球外⽣命体であったが、私はこの悪魔を、まさに現代において悪魔化(demonize/stigmatize)され、フォビア(phobia)の対象にされる⼈々、すなわちマイノリティ属性を持つ⼈々だと考えてみたい。
③仮説「現在の恐怖は未来の存在の逆説的証明である」
時制の仮説、そして悪魔の例をSFから引⽤し、現代のフォビアの対象とされているマイノリティ属性を持つ⼈々を、SFにおける悪魔の⽴ち位置へと代⼊する。そして、そこに向けられる恐怖が、マイノリティが未来も⽣存/存在していることを示しているという、ポジティブな逆説的証明に転換する。
実験
前提として、これらの実験は⽣物学的・医学的な正解を求めるものではなく、あくまでマイノリティポリティクス、ネクロポリティクス、クィアアクティヴィズムの⽂脈で、周縁化・透明化された存在が未来の⽣存に希望を持つことを⽬的として⾏われるものである。
【リサーチ】
・⼈間の恐怖のメカニズムについてのディスカッション、勉強会
・恐怖の⽣物的/物理的定義の仮説組み⽴て
・悪魔や魔⼥狩りなど恐怖と排除の歴史についての勉強会
・SF的時制アイディアについてのディスカッション、読書会、鑑賞会
【ボディリサーチ】
・ディスカッションや勉強会で得たことを実際の⾃らの⾝体にトレースするボディリサーチ
・⾝体と、その周辺環境/条件との相互関係についてのボディリサーチ
・⾝体から未来の記憶/デジャヴの仮説を組み⽴てるボディリサーチ
【アウトプット】
・リサーチから得た情報を基に未来の悪魔の物語を想像し、その出来事を年表化する
・年表化された出来事に対し、社会学的、⽣物学的、⽂化⼈類学的などさまざまな分野での変化を更に細分化する
・年表をもとに未来の悪魔たちの史実/物語をつくる
・その史実/物語をもとに現代における⽣存戦略を⽴ち上げる
目標
SF(フィクション)を真剣に考え利⽤し、現実と接続することにより、これからの未来でも⾃分たちが⽣存/存在していると想像できるマイノリティ当事者を増やしたい。集まって話をする場所、⾃らの⾝体を肯定出来る場所、死ぬ⽅法ではなく⽣きる⽅法を他者と考えることができるセーファースペースとしてのプロジェクトの継続を目指す。
未来
このようなプロジェクトが不要になっている未来。
マイノリティポリティクスやネクロポリティクスが過去のものとして扱われている未来。
写真:Yulia Skogoreva
プロジェクトリーダーへ一問一答
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あなたはどんな風に育ちましたか?
都立国際高校在学中にオーストラリアに1年間の留学。多摩美術大学へ進学し、3年次に中途退学。その後、ダンスカンパニー所属を経て自らが演出、振付を行うアーティストとして作品制作を始める。 -
渋谷の街のエピソード
渋谷は以前はダンススタジオやカフェに行くためによく通う場所だったが、今はハチ公前でのパレスチナ、沖縄、気候変動をはじめとする様々なデモに参加するために来る場所になった。 -
メンバーたちの意外な一面
自らの特権性、加害者性、そして被害者性を見つめながら、少しでもこの世界を変えていこうと実際にアクションをしている、心から尊敬している存在。 -
意気込みをお願いします!
ラディカルさとユーモアを両立させるアクションを、今回のリサーチプロジェクトを通して発見/発明したい。
プロジェクトメンバー
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Minority Politics Research リーダー橋本ロマンス
1995年生まれ。東京都出身。they/them。マイノリテ ィ・ポリティクス、クィア・アクティヴィズム、脱植民地主義などを主題とし、抵抗やノイズを生み出す手段として作品と社会/都市を地続きにすることを目的とした同時代性の高いパフォーミングアーツ作品制作やプロジェクトを行う。
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Minority Politics Research メンバーuhi [鄭優希]
1994年、東京生まれ。朝鮮学校と韓国学校に通う。かつて母が“帰国”を望んだ朝鮮民主主義人民共和国と父の憧れたアメリカの大きな存在を影に感じながら、日本・韓国社会の中で自分が在日朝鮮人三世として抱かざるを得なかった違和感を頼りに活動するクィアの。入管運動や関東大震災朝鮮人虐殺の記憶継承に取り組む。
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Minority Politics Research メンバー齋藤レイ
1998年生まれ。多摩美術大学芸術学科卒業。在学中にフランク・ハーバートのSF小説『砂の惑星』とアメリカ西海岸のカウンターカルチャーについて研究。2023年秋からパレスチナ解放運動に関わり、2024年1月に抵抗する美術学生のためのネットワーク(NASR)を発足。時々、現代魔女の儀式に参加している。
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Minority Politics Research メンバーアリサ
1997年生まれ。生活に密接に寄り添う音楽を介し「社会性・政治性」を新たに見出すイベントプロジェクト<Candlelight>の発起人・主宰。1つの型にとらわれない、自由で編集的な視点からアート・カルチャーと社会をゆるやかに接続する場を開いている。また、本屋B&Bのトーク企画なども担当。
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Minority Politics Research メンバー里央 (they/them)
1996年長野県生まれ、東京育ち。ギリシャ・アテネでの留学を経て、2023年東京藝術大学美術学部先端芸術科卒業。クイアとして、人種・ジェンダー等、人間の属性をめぐる世の中に対する問題意識をテーマに、フィクションとノンフィクションの間を往来するマルチメディア作品を制作している。
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Minority Politics Research メンバーShunya Imamura
2004年、横須賀生まれのシャイボーイ。東京芸術大学美術学部先端芸術表現科在学中。17 才の夏、インターネットで見漁ったサイトで、憧れていたドレスを買った。ひとりぼっちの部屋でそれを着て。部屋の電気を真っ暗にしてPCから漏れ出るあかりだけで踊り狂った。はじめてのショーケース、ベッドの上がステージだった。
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Minority Politics Research メンバーKoto Kurasawa
クリエイティブプロデューサー。主なプロジェクトに、食をテーマにしたイベント「Hearth Kitchen」、PARCO PRIDE WEEK「あいとあいまい」、アートイベント「EASTEAST_TOKYO 2023」、和光 本店地階リニューアルなど。
プロジェクトの歩み
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